時系列で見る総合問題の導入と発展
第1期2000年代後半~2010年代:大学入試改革の準備期間
2000年代後半から、国公立大学や一部の私立大学で、
複数の教科を横断する問題が出題されるようになりました。
背景:文部科学省が「思考力・判断力・表現力」の育成を重視し始めた。
例:
東京大学(2006年~):2次試験の国語や社会で、複数の資料をもとに論述させる問題が増加。
京都大学(2010年~):論理的思考を問う数学や国語の問題が出題。
第2期2015年~2019年:探究学習の導入準備と試行
- 2015年~2017年:「高大接続改革」が進められ、知識の暗記よりも活用を重視する方向へ。
- 2018年:新学習指導要領が公表され、探究学習が正式に導入される方針に。
- 一部の大学(例:筑波大学・国際基督教大学など)が「総合問題」を入試で導入し始める。
第3期2020年度~現在:大学入学共通テストの導入と総合問題の本格化
- 2020年度:大学入学共通テストが導入され、センター試験よりも資料読解・思考力を問う問題が増加。
- 2021年度以降:国公立・私立大学の個別試験でも、教科横断型・資料読解型の問題が増える。
共通テスト(2021年度~)
- 国語・数学・地歴公民・理科などで、複数の資料を組み合わせて考える問題が出題。
- 特に地歴公民では、「探究」的な視点で資料を分析する問題が増加。
- 数学では、単純計算よりも、日常生活に関する問題設定が増えた。
国公立大学の個別試験(2020年~)
- 東京大学・京都大学・大阪大学・東北大学などで、総合問題(複数資料をもとに論述する問題)が強化。
- 筑波大学・横浜市立大学・一橋大学などでは、「探究学習」の成果を活用する入試問題が増加。
私立大学の総合問題の増加(2020年~)
- 早稲田・慶應・上智などで「知識だけでなく思考力・表現力を問う問題」が増加。
- 総合型選抜(旧AO入試)でも、探究学習の成果を評価する方式が普及。
いつから出題されるようになったのか?
- 2000年代後半~2010年代初頭にかけて、一部の大学で試行。
- 2015年~2019年にかけて、学習指導要領改訂とともに導入準備が進む。
- 2020年度以降、大学入学共通テストや個別試験で本格化。
- 現在(2025年時点)では、国公立・私立大学ともに一般的になっている。
暗記型問題の生存率
旧来の暗記型の問題も引き続き出題されています。
ただし、大学や試験の種類によって比重は異なり、思考力・判断力・表現力を問う問題(総合問題)の比率が徐々に増えているのが現状です。
「暗記型 : 総合問題」で 分かりやすく表します
試験種別 | 暗記型:総合問題 | 備考 |
---|---|---|
大学入学共通テスト | 6:4 | 資料読解・思考力問題が増加 |
旧帝大 | 3:7 | 論述・資料読解が多い |
地方国立大学 | 5:5 | 総合問題が増加傾向 |
私立大学(早慶上智) | 4:6 | 応用・資料問題が増加 |
私立大学(中堅・日東駒専) | 7:3 | 総合問題は少ない |
医学部(一般・編入) | 6:4 | 論述・臨床問題あり |
暗記型問題は引き続き出題されるが、総合問題とのバランスが変化していると理解ください。
- 「基礎知識」は依然として必要であり、特に共通テストや医学部入試では、暗記型の問題は大前提としてできてきて当然だとされています。
- 「思考力を試す問題」が増加し、特に難関大学では「知識を使って考えさせる問題」が主流になってきました。
- 大学ごとに傾向が異なるため、受験生は「暗記だけでなく、知識の活用方法」を意識することが重要。
つまり、「暗記型問題は減少傾向にあるが、完全になくなることはない」というのが正確な理解です。
暗記型問題の現状
現在の大学入試では、知識を問う「暗記型」の問題と、思考力・判断力・表現力を問う問題(総合問題)の両方が出題されています。
暗記型問題が依然として重要なケース
-
大学入学共通テスト(旧センター試験)
- 知識を活用する方向に変わったが、基礎的な知識を前提とした問題は多い。
- 例:英語の単語・文法問題、数学の基本的な計算問題、日本史・世界史の基本的な出来事の年号や人名。
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一部の国公立大学の2次試験
- 例:地方の国立大学では、記述式でも知識の正確性を問う問題が多い。
- 医学部や工学部などの理系学部では、公式や法則を正確に覚えていることが前提となる問題が出題される。
-
私立大学の一般入試
- 伝統的な暗記型の問題が多い大学もある(例:日本大学、専修大学など)。
- 特に文系学部の日本史・世界史・地理では、知識を直接問う問題が頻出。
-
医学部入試(学士編入試験を含む)
- 生物や化学の知識を正確に覚えていることが必須。
- 物理や数学でも、基本公式を知っていなければ解けない問題がある。
選抜委員経験者からのコメント
総合問題が合否を左右する理由
「知識のある受験生」と「知識を活用できる受験生」の違い
暗記型問題なら、高得点を取れる受験生は多い。しかし、総合問題では「知識をどう組み合わせるか」「どのように論理的に説明するか」が求められ、ここで大きな差がつく。
例えば東大や京大の国語・社会、医学部の小論文では、単なる知識の羅列では太刀打ちできません。
「対応力」「応用力」が試される試験構造になった
共通テストでは、従来の暗記問題が減り、資料読解・思考型の設問が増加。
難関大学の2次試験では、複数の分野を横断する問題が増え、教科の枠を超えた思考が必要。
例:一般的には知られていませんが、実は医学部の一般入試は編入学試験の問題を借用して作成しています。「生命倫理学」と「細胞分子生物学」、「公衆衛生学」の知識を融合させた論述が求められる。
一部の受験生しか本格的に対策できていない
総合問題への対応は、過去問演習だけでは不十分。自ら考え、表現し、フィードバックを受けながら鍛えるプロセスが必須。
しかし、現実問題としてここまでの対策ができている受験生は極めて少ない。なぜでしょうか?皆さんはご存知だと思います。
まとめ
「総合問題」は合否を分ける最大の要因であり、従来の暗記型試験とは本質的に異なる。
本気で対策するなら、「考える力」を長期的に鍛える独自の学習法を確立するしかありません。 受験生にとって最も重要なのは、「総合問題の本質を理解し、長期的な計画を持って思考力・表現力を磨くこと」になります。
安易な「パターン練習」や「暗記だけの勉強法」に頼るのではなく、「知識を使って考える」力をつけた者だけが、最終的に我々のような教授会・選抜委員の評価を獲得することになります。